溺愛オフィス


空港のロビーに私の声が響き渡り、私は慌てて両手で口元を押さえた。

桜庭さんは呆れながら、私の腕をひいて壁際に寄る。


「い、いつですかっ」

「テキーラで泥酔した日、蓮井の家で」


あああああ、あの時、私そんなことを!?

でも、それを聞いてやっと繋がった。

桜庭さんが"待ってる"と言っていたのが、何を指していたのか。


ま、待ってよ。

じゃあ……車の中でキスされそうになった時も……

桜庭さんは、私の気持ちを知っていて、しようとしていたことになる。


「ひ、ひどいですよ、桜庭さん」

「何が」

「だって、私の気持ちを知りながら、キスで試そうなんて……」

「試し? 誰がそんなこと言った?」

「へ? でも、手に触れるのに試してみるかって……」

「手、だろ。俺はその先に進むか聞いたんだ」


試しだとは言ってない。

きっぱりと桜庭さんが断言したところで、ロビー内にアナウンスが流れる。


「ユナイテッド航空7927便、ニューヨーク行きは、ただいまご搭乗の最終案内をいたしております」


それは、桜庭さんと過ごせるタイムリミットを告げるもの。


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