溺愛オフィス
さよならなんて嫌だけど。
桜庭さんには桜庭さんの人生がある。
引き止めるなんてできないし……ちゃんと、伝えられたから。
「あの……お世話に、なりました」
私は、深く頭を下げた。
「……は?」
……何だか今、桜庭さんが訝しげな声を出した気がする。
「リアライズ、辞めるのか?」
しかも、よくわからない質問をされてる気がする。
繋がらない会話に、私が下げていた頭を上げれば、そこにはやはり訝しげな顔をした桜庭さんがいて。
「私は辞めませんけど、桜庭さんは辞めるんですよね?」
答えると桜庭さんは更に眉を顰めた。
「何言ってんだお前」
「何って、このまま日本に戻って来ないんでしょう?」
「誰が」
「桜庭さんですよ」
「なんでそうなる」
「だって、壮介君が……」
言いかけて、私はハッと口をつぐんだ。
内緒だって言われてたのに、私ってば壮介君の名前まで出してしまった。