溺愛オフィス


そのしぐさに滲む色気に見惚れていたら、うっかり視線がぶつかってしまって。

桜庭さんは目を細め「柊奈」と私の名を呼んだ。


「な、何ですか?」

「俺は優しいから先に言ってやるよ」


優しいとか口にしている割に、何だか表情は楽しげで。

少し嫌な予感がしながらも、桜庭さんの言葉を待てば……


「キスするぞ」


声にして、私の手を引いた。


したいという懇願でも、してもいいかという質問でもない。

するという宣告に、優しさはあるのだろうかと疑問に思いながらも、まだ彼と唇を重ねることにあまりなれていない私は身体を強張らせてしまう。

でも、嫌なわけじゃない。

怖いわけでもない。

それを桜庭さんもわかっているから、私の身体をその腕の中に優しく閉じ込めた。

彼の腕は温かいけれど、緊張もする。

その緊張が、私を逃げたい気持ちにさせるのはいつものことで。


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