溺愛オフィス
桜庭さんは、眉根を寄せて溜め息を吐きながら、スマホを黒いズボンの後ろポケットにしまう。
と、気配に気付いたのか、その視線が私を捉えて。
「……何してる」
不機嫌そうな声で話しかけられてしまった。
覗き込むようにしていた私は、慌てて姿勢を正す。
「いえ、あの……紅茶のおかわりをしようかと思って……」
「なら堂々としろ。コソコソするな」
「す、すみません」
「蓮井はいつも俺に謝ってばかりだな」
「……ごめんなさい」
うっかりまた謝ってしまうと、桜庭さんが鋭い目つきで私を見た。
ああ、もう。
本当に苦手だな、桜庭さんのこういうところ。
昨日のこと謝りたいけど、今言ったらまた叱られそうだし……
でも、それならせめて、お礼だけでも言っておきたいな。