溺愛オフィス
桜庭さんがコーヒーを淹れている横で、私は紅茶のティーバッグを棚から取り出しセットする。
チラリと様子を伺うと、桜庭さんと視線がぶつかってしまった。
わけもわからず謝りそうになって、私は視線を外すと唇を引き結ぶ。
すると、桜庭さんが深く息を吐くのが聞こえて……
「……悪い。きつく言い過ぎた」
横顔で謝ると、彼はコーヒーを手にして給湯室を後にした。
不機嫌な理由はよくわからないけれど。
時々きついことも言われるけど。
……悪い人じゃないのは、なんとなくわかる。
クールな桜庭さんが感情的になるくらいだ。
色々あるんだろうな、なんて考えた直後──
「あ! また言いそびれちゃった!」
謝罪どころかお礼さえも言えなかったことに気づいて。
次こそはと決心しつつ、いい香りの紅茶を片手にオフィスに戻ったのだった。