溺愛オフィス


「では、撮影当日はよろしくお願いします」


社長がにこやかに告げると、松岡さんは綺麗なお辞儀で応え、KAORIさんもそれに続き「ご期待に添えるよう頑張ります」と微笑む。

私たちもよろしくお願いしますと頭を下げ、応接室を出ようと踵を返した時だった。


「あ、桜庭さん。少しいい?」


桜庭さんを呼び止めたのは、KAORIさんの声。


「…………」


呼び止められた桜庭さんは返事をせず、ただ歩みを止めてKAORIさんを見ていて。

その視線がつい……と、社長へ向かうと。


「行ってこい」


そう言って、社長は桜庭さんに頷いてみせる。

そして。


「じゃあ、僕らは先に出てようか」


そう私たちを促した。

仕事の話なら、私たちも聞いた方がいいのではと一瞬考えるも。


「では、下までお見送りします」


松岡さんに促されたこともあり、深水さん、壮介君に続いて私も歩き出した刹那──


耳に届いた、二人の会話。


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