溺愛オフィス
「いいのできそうか?」
「幾つか候補はあるんですけど、どれもしっくりこなくて。明日、チーフに確認してもらうつもりです」
私の話に、桜庭さんは「そうか」と返事しながら、隣の席に腰を下ろす。
そして、長い指で缶コーヒーのプルタブを開けると、一口流し込んで。
「蓮井はここでずっと働く気なのか」
突然、そんなことを尋ねられた。
リアライズでずっと働く。
そんなこと、ちゃんと考えたことがなかった。
バイト時代、プレスは憧れの職業ではあった。
けれど、ここが求めている場所なのかと言われたら、まだ経験も浅いのでよくわからない。
「どう、なんでしょう? ここは好きですし、仕事も好きです。でも、ずっと……とかは、考えたことなくて」
そういえば、去年の今頃に、寿退社した女性の先輩がいた。
その時の幸せそうな姿が羨ましいくもあったけど……
自分の男性に対する苦手意識のことを考えると、結婚して幸せな家庭を……等とは、夢みたいなもので。
それでもいつかは、という憧れを抱きつつ、私はコーヒーを飲んで休憩している桜庭さんに話す。