溺愛オフィス

【前向きな気持ちが肝心です】



陽がてっぺんに昇りきる前の時刻。

新ブランドプロジェクトを支える私たち三人は、朝から会議室に篭って仕事をしていた。


このプロジェクトは、KAORIさんを起用した巨大広告を世間にお披露目したら終わりなわけじゃない。

ファッションショーも控えているし、カタログ用の撮影もある。

明日からはカタログ撮影の予定が入っていて、さっきまでこの会議室にはデザイナーの深水さんを始め、スタッフが集まって打ち合わせを行っていた。


ふと、ノートパソコンのキーボードを叩いていた桜庭さんの手が止まって。

次いで、彼の口から小さく息が吐き出される。

その気配に私が視線を上げると、桜庭さんは携帯を手にして立ち上がり会議室を出て行った。

扉が閉まると、壮介君が「女だな」と口にする。


……もしかしたら、KAORIさんだろうか?

そう思って、昨夜のことを思い出す。

KAORIさんは、元恋人だと言っていた。

それを桜庭さんも否定はしなかった。


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