溺愛オフィス


──同日、夕方。

忙しく仕事をこなし、ようやく一息つけるようになった私は、デスクの端に置いてあるスマホのランプが規則的に点灯していることに気付いた。

手に取ると、ディスプレイに表示された着信履歴には、父方の祖母の名前。

何かあったのかと思い、私はオフィスを出ると廊下の隅っこで電話を折り返した。

数回のコール音の後に祖母の声がして。


『ああ、柊奈ちゃん。あのね、誠二が倒れたのよ』

「えっ?」


誠二は私の父の名前だ。


『仕事中にね、いきなり倒れたみたいで。お医者さんが言うには脳梗塞だって』

「そう、なんだ……お父さんが……」


私の両親は10年前に離婚している。

母は3年前に再婚したけど、父のことは良く知らない。

……長く、連絡をとっていなかったから。



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