ハル
「……っ、この子……」
多分、否確実に『そう』だ。それならこの行動にも、ここに一人蹲っていたことにも納得がいく。
ここに置いていくわけにはいかない、けれど、荷物があるのはどうしようかとソウは思案する。少し悩んで、近くにあった木の陰に荷物を隠すように置いた。
踵を返して、子供を背負う。軽すぎる体重に、考えが更に確実になっていくのを感じる。
歩いて一時間弱の道程、加えて強い風。煽られそうになりながら、ソウは何とか歩みを進める。家のベッドに子供を寝かせ、戸締りをしてまた取って返す。荷物を持ってから家に帰ると、それを置いて子供の傍へ座った。
あどけない寝顔。さっきソウを殺そうとしていたとは思えないくらいの、子供らしい寝顔。その顔に少し安心し、ソウは嘆息する。あどけない寝顔だけが、唯一の救いだ。
しばらくの間そうして子供の寝顔を眺めていたソウは、ご飯を作っておこうと下の台所へ向かう。面倒くさくなって、子供が起きたときに食べられるものを作って自分もそれを食べることにし、手際よく準備を始める。
そうは思いながら、ソウは自分の行動を理解しがたいとも感じていた。過去に捨てたはずの気持ちが残っているなんて思わなかった。もう関わらないと決めたのに、しかし子供を拾ってきてしまったのは事実。また捨てるわけにもいかないし、あの子はあまりにも危うすぎる。
そう、危うすぎるのだ。存在自体が、あまりにも危うい。
それの原因は分かっている。原因の原因も、見当がつく。分からないのは、どうしてあんなところに倒れていたのか、ただそれだけ。
捨てられたのかもしれないし、自分から逃げ出してきたのかもしれない。もしかしたら、『自分』でない『自分』が逃げ出してきたのかもしれない。
どちらにせよ、あの状態であの子供を放置していくのは、ソウの中の何かがどうしても許さなかった。昔のことだと割り切っていたはずなのに、本当は割り切れていなくて、ソウはあの場に子供を置いていくことが出来なかった。
手元に何もない今、子供にしてやれることなどないに等しい。出来るのは子供を住まわせてやることと、話を聞くことくらいなのだ。
それでも、無意識だったとしても、子供を連れ帰ってきてしまったのは事実であり。外に放り出したら確実に生きてはいけないあの子を捨てることは出来ない。とどのつまりは、子どもと一緒に生活していかなければならないわけで。
「はあ……」
溜め息を吐いた。手が止まっていたことに気付き、ソウは支度の続きを始める――――その時。