ハル
ソウもまた、過去を背負う身。だが、ソウとてハルを拾った時点でこうなることは予測できていた。出来ることならば避けたいことではあったが、なってしまったものはどうにも出来ないのである。ソウに出来るのは、せめてハルやテルやサクやメイやアオやナノが、いなくならないようにすることだけ。しかしそれですら、出来る保証はどこにもない。
四面楚歌。八方塞がり。どうしようも出来ず苦しむソウの唯一の救いは、『ハルの寝顔』だった。寝ているときはソウとしても安心していられるし、ハルにも負担がかからない。 それも、長くは続いてくれないのだが。
「……ハル」
ぽつり、言の葉を落とす。束の間の休息。片付けを終えたソウは、ハルの傍らへと腰を下ろす。そうしてその頭を撫でてやる。
さらさらと指通りのいい髪は絡まることを知らない。滑らかな黒髪を撫でていると、ハルが小さく身じろぎをした。
「……ん、」
「……ハル?」
ハルがこくり、頷く。ソウがよかったと気を抜いた瞬間、しかし小さい身体に襲い掛かられる。
「ヴヴ……」
「、っ……ゲン……」
入れ替わった。なんとかゲンからの攻撃を避け、ソウはベッドから立ち上がる。壁に激突したにも関わらず、なおもゲンはソウを狙って牙をむく。その攻撃を軽くいなし、死角に入ったゲンを拘束した。
ソウの腕の中でとにかく暴れるゲン。顔に引っかき傷を負いながらも、ソウはゲンを抱き締めることで抑え込もうとする。その耳元に、サク、と呼びかけた。動きが止まる。
「……ハル?」
問いかけると、いえ、と否定が返ってくる。その話し方に今度は「テル、」と呟くと、はい、と返ってきた。
「テル、ゲンは?」
「サクが抑えています。他の皆さんは疲れているようでしたので、お前が出ろ、と」
サクの判断は正しい。疲れている中出てきて乗っ取られてしまっては、元も子もないからだ。ソウはそうか、と小さく呟くとテルを離す。テルの視線が、ソウの顔の傷を捉えた。