ハル
その傷に手を伸ばし、テルはそっと触れる。一瞬ピリッと痛みが走って、ソウは思わず顔を歪める。表情を変えず、テルは言の葉を放つ。
「……ゲンですか」
「……嗚呼、」
「貴方も無茶をしますね」
分かっているでしょうに。テルの言葉に、ソウは曖昧に笑う。その瞬間だけ、テルが哀しそうな顔を見せる。それに気付いたソウは、気にすんなと軽い調子で言葉を紡ぐ。
「こんくらいすぐ治る」
そう言えば、テルはどこか儚い笑顔を見せた。
「……サクが」
ぽつり、テルが漏らす。言葉を止めたテルをん、と促せば、少し迷いながらも口を開く。
「サクが、頑張っています。ゲンと一緒になろうと今、頑張っている」
それは、危険な賭け。サクが残るかゲンが残るかの、別れ道。
頷くことが出来なくなる。何も言えなくなったソウに構うことなく、テルは淡々と言葉を落としていく。
「サクが優勢でしょうが、ゲンの力も未知数ですから。サクが残ることを祈るしかありませんね」
「……そうだな」
やっとのことで、ソウはそれだけを吐き出す。ちらり、とテルがソウを見たのが分かったが、それに反応が出来ないソウ。何も出来ない自分が嫌で仕方ないのである。脳裏を駆け巡るのはあの日の記憶。無意識に顔を強張らせたソウに、テルの声がかかる。
「貴方もですよ。貴方がいるから、サクも頑張っていられるのです。貴方が壊れたら、それこそハルやサクや他の皆さんも壊れます」
ソウの瞳が揺れる。それを見逃すほど、テルは甘くない。視線を逸らしたソウに、テルは小さく吐息を吐く。
「……まあ、貴方にも色々あるでしょうし、あまりとやかく言える立場でもありませんが」
どうして知っているのだろうか、とソウは思う。ハルもサクもメイもアオもナノも、勿論ゲンも知らないはずなのに、どうしてテルが知っているのだろうかと。
だが、表に出したら確信に変わるだけである。テルが鎌を掛けている可能性がなくもない。だから、とソウは動揺を隠し、テルに向かい合う。