ハル
「俺は、大丈夫だよ。大丈夫」
「……そう、ですか」
腑に落ちないと言いたげなテルに、ソウは大丈夫と笑ってみせる。その儚すぎる笑顔に、テルは小さく息を呑む。危ういと、思った。けれど何も出来ないテルは唇を噛む。どうしようも出来ないのは、お互いなのだ。
ソウがぽん、とテルの頭を叩く。そのままわしゃわしゃと撫で繰り回す。眉を寄せたテルに、ソウは何かをごまかすように、笑う。
「テル、お前はお前の心配してろ。俺のことは気にすんな。大丈夫だから」
テルに言いながらも、自分に言い聞かせているような口調。尚も反論しようとしたが、有無を言わせぬ口調にテルは何も言えなくなる。尤もなソウの言葉に、テルは苦い顔で頷く。
暫しの沈黙。すると、テルが眉を寄せる。その様子をじっと見ていれば、テルは固い表情で口を開いた。
「ハルに呼ばれました。……代わりに、メイを出しますから」
「……メイは、大丈夫か」
「それは、本人に」
テルがいなくなる。代わりに出てきたのは、テルの言った通りメイ。辛そうな顔をする彼女は、すぐにソウに抱き着く。それを受け止め、ソウはメイの背中をとんとんと叩いた。
「……ソウちゃん」
何かに怯えたようなメイの声に、ソウは胸を痛める。理由は十分分かっている。だからこそ、余計に辛い。
何も言えずに、ソウはただただメイを抱き締める。耳に届いた嗚咽が、ソウの中の何かを駆り立てる。それを堪えながらも、ソウはサクが心配で堪らない。あれは、ハルにはなくてはならない存在だ。
勿論、テルもメイもアオもナノも、ゲンでさえハルに必要な存在であることに変わりはない。しかし、ハルだっていつまでも依存しているわけにはいかないのだ。
「メイ」
耳元で、ソウは言葉を落とす。それに呼応するかのように更に涙を零すメイの背中を、一定のリズムで叩く。
五分が一時間のように感じられた。実際、一時間経っていたのかもしれないとソウは考える。時間の感覚が酷く曖昧で、窓から入る茜色に今は夕方なんだとふと思う。
「……ソウ」