ハル
幼い声が、ソウの耳朶を打った。アオ、とその名を落とす。震える手で抱き着いてきたアオを、ソウは抱き締め返してやる。
「……ソウ、こわいよ」
「アオ……」
怯えていて、それでいてどこか切ないアオの声。痛くなる胸を隠し、ソウは頭を撫でてやる。それでも泣かないアオが余計に痛くて、ぐっと唇を噛んだ。
「ソウちゃん」
今度は女の子。この声はナノだ。ナノ、と小さく呟きソウはその頭を撫でる。今日はいつもより大人しい。大人しいのではなくて、何かする気が起きないのかもしれない。
「ソウっ、」
「……ハル、」
そして、ハル。中々出てこないサクを心配しながら、ソウは泣き出すハルををあやす。ソウ、とハルが名前を呼んだ。それにうん、と返し、今度はソウがハルと呼ぶ。自分の名前を呼ばれることで自分の存在を確認し、相手の名前を呼ぶことで相手の存在を確認しているようなハル。その様子に、ソウは改めてテルの言葉を痛感する。
ソウが壊れたらみんな壊れる、とテルは言った。ソウがいるからこそみんな頑張っている、と。危うい、とソウは思う。ハルの危うさに、ソウはハルをそこに抱き締めるようにきつく抱き締める。
「……ハル、サクは?」
「……分からない。奥の部屋に行っちゃって出てこないの」
すうっと背筋が冷える。そんなことないと思うのに、最悪の状況を考えてしまうソウ。だけどハルに余計な心配を掛けさせないために、ソウはそれを隠す。
ハルだって分かっているはずだ。今、サクがどういう状況にあるのかくらい。それでも、これ以上ハルを苦しめたくないというのが、ソウの思いで。ただでさえ不安になっているハルを更に不安にさせたところで、自分が辛くなるだけなのである。
「……大丈夫だよ、サクはきっと」
ただ、それだけを落とした。ハルが小さく頷く。
信じるしか、ない。サクを、信じるしかないのだ。ハルからふっと力が抜ける。その、小さな身体を抱き留めながら、ソウは決意を固めた。