ハル
年相応のはしゃぎっぷりに、ソウは小さく安堵の溜め息を漏らす。あれがハルでなくてアオだったとしても、同じ一人の人間であることに変わりはない。だが、アオがこんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだった。アオは、いつもどこか遠慮しているから。
ぐーっと背伸び。それから立ち上がると、ソウは手元にある雪を丸く固める。「アオー!」と呼ぶと、その雪玉をアオ目掛けて投げた。
「うわっ! ひどいよソウー」
「こういう遊びがあんだよ、アオ。雪合戦、ていうんだ。アオも雪丸く固めてみろ」
アオがソウの言葉を繰り返す。嗚呼、と言いながらそうはもう一つ雪玉を作り始める。それを見たアオもしゃがみこんで雪を丸く固めていく。
いくつか雪玉を作り終え、ソウはふと顔を上げた。瞬間、顔に衝撃。冷たいそれに顔を顰めながら払うとアオを見る。
「やったー! あたったあたったー!」
「……やったな? よしアオ、行くぞ!」
「きゃー」
ソウが手加減しながらアオ目掛けて雪玉を投げる。きゃっきゃと声を上げながら雪の中を走り回って逃げるアオ。ソウの雪玉が切れたところを狙って、アオはソウに雪玉を投げる。
体温で雪が解けて服が濡れている。雪の冷たさで手がかじかむ。それとは反対に、走り回っているせいで身体は火照っている。
それでも尚、追いかけて追いかけられて、投げて投げられてを繰り返す。
「きゃー! ソーウー!」
「うわ、この! やったな!」
「ソウー、ソーウー、ねえねえゆきだるまつくろ!」
唐突に言い出したアオに、ソウが眉を寄せる。しかしそれも一瞬で、ソウはふっと笑みを浮かべる。
たまには振り回されてもいいかもしれない。
「雪だるまか。……作るか、アオ」
「うん!」
ソウの返事に、ぱっと顔を輝かせるアオ。二人は持っていた雪玉を雪の上に転がし、大きくしていく。
心から楽しんでいるようなアオに、ソウは隠れて小さく笑みを漏らした。初めは警戒してばかりで話すこともしなかったアオがここまでになったのも、大きな進歩である。そうなったのは誰のお陰か、きっと環境のせいもあるのだろうとソウは思う。