オカンとたっくんの心霊事件簿
「たっ…くん…?本当に…たっくんなの?」

目の前にいるのは間違いなく、あの日、この世を去ってしまったたっくんだった。

私の問いに、ニコニコ微笑みながらうなずく。

「たっくん…!!」

私はたっくんへ駆け寄り、抱き上げようとした。

――が、伸ばした手はするりとたっくんの体をすり抜ける。

「――……!!」

それが、たっくんがこの世にいないことを証明したのだった。

私の頬を涙がポタポタと滴り落ちる。

「…ごめんね。ごめんね、たっくん…。ごめんね…。」

泣いてる私の顔を、たっくんがのぞきこむ。

『…泣かないで…。』

たっくんが言った。

一歳になったばかりのたっくんはまだ喋れなかった。けれど、間違いなく、その言葉はたっくんが発したものだった。

「たっくん…。話せる…の?」

私が聞くと、コクリとうなずく。

「…ごめんね…。ママのせいで…。」

私の言葉にたっくんはふるふると首をふった。

『…ボクも…ごめんね。もっと早く来たかったんだけど、叔母ちゃんのところとか、ばぁばのところとか…行くところがたくさんあって…。』

「そっか…。叔母ちゃんのとこにも、ばぁばのとこにも、行ってきたんだね。」

『うん。ボク、早くここに戻りたかったんだけど、皆にもう会えないこと伝えたくて…。』

ちょっと寂しそうにたっくんが言った。

『…寂しい思い…させてごめんね…。…オカン。』


「ううん、ママのほうこそ…。」

そこまで言って、ふと、なにかが引っ掛かる。

「たっくん…?今…、ママのこと、なんて…?」

『ん?…オカン。』

は!?

一瞬で頭が【オカン】という単語でいっぱになる。

ちょっと待って!
オカン!?私のこと!?

たっくんの初めての言葉は【ママ】にしたくて、赤ちゃんの時から【ママ】という言葉を教えまくった。

まだ【ママ】とは言えなかったけど、「ママはだーれだ?」と言うと私を指差してた。
もうすぐ【ママ】と呼んでもらえると楽しみにしてたのに…!

なぜ、よりによってオカン!?

「たっくん…なんで…?オカンじゃなくて、ママって呼んで…。」

『んー…。でも、リョウ兄もオカンって呼んでるよ。』

たっくんの言葉にハッとなる。

そうだ!リョウ!!

リョウはちょっと前から私のことを【オカン】と呼ぶようになったのだ。

なんでも、関西圏から転校してきた子がお母さんのことをそう呼んでて、それに感化されたらしかった…。

だからって…!!なんで、たっくんまでそう呼ぶの!?



幽霊となったたっくんが見えた嬉しさよりも、憧れの【ママ】ではなく【オカン】と呼ばれたショックにうちひしがれる私だった…。
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