ストックホルム・シンドローム
全国的に肌寒い日になるとニュースで言っていたけれど、なぜか寒さは感じなかった。
僕は、いつも通っているらしい通学路で彼女を待ち伏せていた。
灰色のコンクリートの塀の影に隠れ、彼女の気配を待ち続けた。
空は深いグレーで、雲は厚く、僕の計画を見守っているように思えた。
…そして、彼女はやってきた。
電線の上に留まる雀を見て軽く笑う彼女を見ていると、紐で胸を締め付けられたような息苦しさを覚えた。
苦しい。
胸が痛い。
彼女を、視界に入れているだけで…。
…あぁ駄目だ、もうこれ以上は、我慢なんてできやしない。
彼女の前に立ち塞がると、彼女は瞬間 戸惑った表情を作り僕を避けようと道の端に寄った。
「…あの、すいません」
話しかけると、あからさまに訝る様子で彼女は僕を見上げる。
「…なんですか?」
素早く左右に目を配り、誰も人がいないことを確認した僕は、彼女に笑いかけた。
自分の顔は好きではないけれど、整っていると言われることは何度かあったから、どうせなら利用した方がいい。
そこらの男子に比べれば、あまり警戒心を持たれることはない。
例に漏れず彼女も少し眉をひそめただけで、僕の声に耳を傾けた。