ストックホルム・シンドローム
…あぁ、その、僕を映すブラウンの瞳。
君の視線を感じるだけで、僕の心は弾む。
「えっと…この辺に図書館があるはずなんですけど…」
騒がしく脈打つ心臓を押さえ込み、彼女に問いかける。
「…図書館が開くの、九時からですよ」
彼女は顎に手を当てて、視線を左上に向けながら鈴を転がすような声で言った。
…そんなことはどうでもいいんだ。
僕は君に話しかける口実が欲しかっただけなのだから。
「場所を知りたいんです。友達と待ち合わせをしていて」
「そうなんですか?それなら、ここの道をまっすぐ行って、信号が…」
彼女が不用意に振り向いた。
…今だ。
着込んだダウンジャケットの中から銀に光るナイフを取り出し、
「二つ目の角を…えっ?」
彼女の白い首筋に
「あ…いや…!」
「…静かにして。殺すよ?」
切っ先を突きつけた。
彼女は震えて、声も出ないらしい。
「…僕に殺されたくないのなら、前を見て」
優しくそう命じると、彼女は身体を震わせながら前を向いた。
彼女の持っていた鞄が落ちた。
「…静かに」
僕はナイフを彼女の首筋に当てたまま、耳元に囁く。