ストックホルム・シンドローム
「なんで…」
「…ねえ。…教えて?」
沙奈は、手錠を鳴らした。
『あのさ。今度遊園地に行こう!大好き』
『好きだよーっ!ふふ、照れるね』
思い返される、あの記憶…。
僕はチアキを…。
『大っ嫌い。なんでだと思う?』
…あいしていた。
「…良いよ。教えてあげる。…そんなに知りたいんだったら」
…本当は、思い出すだけでなんともいえない気持ちが喉元まで込み上げてくるのだけど。
それは、痛い、痛い、思い。
「…気が、進まないけど」
「…うん」
僕は壁にもたれかかったまま、床に座り込み、足を投げ出して目をつぶった。
そうでもしないと、眩暈を起こして倒れそうだったから。
…なにを、どう話せばいいのかわからないけれど。
「…チアキは…僕が、昔、愛していた人の名前」
僕が、焦がれていた人の名前…。
「…今は大学生だけど、出会ったのは五年前。…高校一年の時だった」
思い出すのは、舞い散る桜と…記憶から完全に葬りたい、チアキの笑顔――。
「…付き合い始めて。その頃は、幸せだと…思って、いたんだけど…」
鐘が鳴り響いているかのような、頭痛がする。
鐘は、響く――。