ストックホルム・シンドローム
入学当時の桜の木の下で笑う、彼女に、きっと僕は一目惚れをした。
桜は満開で、儚く散りながら、木の下で佇む彼女のことを包み込んでいた。
…その日からだった。
僕が彼女に、恋い焦がれるようになったのは。
廊下ですれ違った瞬間に香る匂いに思わず動きが止まったり、食堂で…偶然を装って彼女の隣に座ったり。
病的に、とはいかないけど、僕は彼女に本格的な恋をしていたんだ。
彼女は茶髪をショートにしていて、いつも笑っていた。
そんな彼女を見て、胸が痛いと感じる日々が一年間続いて――。
二年生になったとき、幸いにも彼女と同じクラスになれたんだ。
同じクラスになったからには、もちろん今まで以上に話す機会なんかも多くなる。
…我慢しきれなくて。
僕は、彼女が放課後、教室で残っているときに、告白、したんだ。
『…好きだよ』って。
『愛してる』って。
彼女は驚いた様子で焦げ茶の瞳に僕を映して…「あたしも」って返事をしてくれた。
『…付き合ってください』
『よろこんで』
僕は、初恋だった。
本気の恋だった。
だから、幸せで、僕は嫌われないよう必死に愛をささげた。
…その人の名前が、チアキ。
僕の、大好きだった人。