ストックホルム・シンドローム


気持ち悪いと思う?


でも僕は、比喩でもなんでもなく、胸が張り裂けそうなほどの痛みを感じた。


…次のデート当日、チアキに訊いたよ。


『もしかして、浮気してないか』って。


心臓が口から飛び出るか、と思うほど緊張して、もしも認めたらどうしよう、って。


…チアキ、なんて言ったと思う?


ふっ、と笑い声を、漏らしてね。


『浮気?してないってー!彼女を疑うとかサイテイ!』


…そう、今までのチアキみたいな穏やかな雰囲気を見せず、吐き捨てたんだ。


大声で笑っていた。


そして、たゆたう僕に向き合って、微笑みながら言ったんだ。


『やっと気付いたんだ』


『あんたと付き合う前から、彼とは恋人同士なんだよ』って具合にね。


チアキの友達が教えてくれたことは、本当だった。


僕は、チアキにとっては暇つぶしの存在だったんだよ。


チアキは淡々と、僕を罵った。


『ホント嫌いなの、あたし。あんたみたいな、愛の重い男』


『並んで歩く分にはいいけど。自慢できるし?でも面倒臭いんだよね、正直』


『別れてもいいよ?あんたがあたしのこと嫌いになったんならさ』


散々バカにされて、蔑まれて。


…それでも。


僕は。


チアキのことが、好きだった。


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