ストックホルム・シンドローム
『へぇー!あんたバカなんだ。良いよ?
じゃあ、これからも付き合ってあげる』
今でも夢に見る。
辺りに響く笑声と、チアキが吐いた言葉の数々、僕を見下した冷たい視線。
自分にすがりつく僕のことを、憐れとでも思ったのかはわからないけど。
その日からも、デートなんかはしたよ。
ただ、違ったのは…チアキが僕に『大嫌い』って言うようになったこと。
『ほら、あたしに顔を見せないでよ。吐き気がする』
『あたしのこと好きなんでしょ?あたしは嫌いだよーっ』
『…重すぎて、引く』
その頃の記憶は曖昧で、あまり覚えていない…。
哀しかった。
チアキは、僕を、これっぽっちも…。
「…愛してなかったんだね」
沙奈の声が耳に届き、僕は回想から抜け出した。
見回すと、そこは部屋の中。
ベッドの上に寝転んでいる、僕の唯一の
愛しい人。
「…そうだよ。チアキはなんとも思っていなかったのさ。僕はこんなにも、チアキのことを想っていたのに」
鮮明に記憶に刻まれているのは、僕を蔑み、見下し、嘲笑うチアキの顔――。
『あたし、あんたが大嫌い』
…忌まわしい…。
忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい!
それでも…。
「…愛していたのに」
身体中から、力が抜けていく。