ハートブレイカー
「あれ?私、この服持ってない・・・」
「だろうな。俺が買ってきたから」
「・・・なぜ」
「おまえに似合いそうだと思って」

彼を睨みつけても、ここにある私服はこれしかない。
パジャマでタクシーに乗る、というのも・・・うーん。

しょうがない。

私は渋々新しい服に袖を通した。
そして思いたくなかったけど、やっぱり靴も新品だった。

「あの・・・」
「何だ、マナ猫」
「だっ、だから、そう呼ぶのはやめてって・・・!」
「でもかわいいよ」

何気ない直哉の一言に、私の顔が引きつる。

「でもね、まななこってよんでいいのは、パパだけなんだって」
「マナ猫でしょ」

・・・しまった、つい訂正しちゃって・・・!

不機嫌な顔でチラ見すると、彼のポーカーフェイスが何となくニヤついてるような気がした。

「よし。じゃあ行くか」
「はーい!」

さっきまで「ママぁ」と泣いてたあの子は、またパパと一緒に手をつないで歩き始めた。
まったく・・・ん?
数歩先に歩いていた直哉たちが立ち止まった。

「ママー?はやくぅ」

私はフッと笑った。
早くここに来いと促す息子のところへ歩いていくと、ふっていた右手をつなぐ。

直哉を真ん中にして、私たちは歩き始めた。

親子だけど家族じゃない。
「その格好似合ってる」なんて言葉は鵜呑みにしない。
かわいくないのは分かってるけど・・・頑なな態度は崩さない。


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