ハートブレイカー
頑なに主張したおかげか、海堂さんは私のアパートまで送ってくれた。
別の場所に連れて行かれなくてよかった。
心の奥で密かにホッとしているのを、彼に知られたくない。

でも、この人がそう簡単に引き下がるとは思えない。

「ありがとうございました」
「愛美(まなみ)」
「だ・・・・はい」

もう余計な会話はしたくない。
呼び捨てにしたければ、どうぞお好きに。

「おまえが倒れたことを言っておく人は、他にいないのか」
「は?」

質問の意味が、よく分からない。

「たとえば、おまえのご両親とか・・・」
「あぁそれなら大丈夫です。あの人たちは知らないから」

直哉本人がいる前で、「孫の存在を知らない」とは言えない。
でも頭の回転が今日も速い海堂さんは、それと私の微妙な表情だけで察してくれたようだ。

彼の眉間に、かすかなしわが寄った。

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