ハートブレイカー
あ。しわになる。
じゃなくて!

今この人、「俺の妻」って言った。

セクハラ親父を睨む彼の横顔から目が離せない。

「覚えてろよ!」と負け犬の遠吠えが、向こうから聞こえた。
ていうか、あんたが負けたってこと、覚えてろ。

「直哉」
「はいパパ」
「車に乗ってろ」
「はーいパパ」
「え。ちょっと、なお・・・」

直哉は嬉々として、すぐ近くにある空色の新車へ駆けていった。
同時に、彼はその場でロック解除をする。
私に体を密着させたまま。 私を見ながら。

「行くぞ」
「で、でも・・・」
「直哉は行った。おまえはどうする」

ひ、卑怯者!!!

「荷物。貴重品とか・・・あ!鍵」

家の鍵、直哉経由でまだこの人に預けたままだった!
それじゃあ家に入ろうにも入れないじゃないの。
まったく、私ったら・・・。

「おまえたちの荷物はトランクの中と、一部はもう俺んちに運んだ」

・・・何ですと?!
そんなことのために、鍵託したんじゃないんですけど!

「他に質問は」
「・・・・・・」

最後の悪あがきも通じなかった。
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