ハートブレイカー
彼はすべて見越していた。
それとも計算し尽くしていた?
直哉まで味方につけて。
なんで嬉々として荷造り手伝ってる直哉の顔が思い浮かぶのよ・・・ 。

海堂さんはフッと微笑んで私から体を離すと、スタスタと歩き始めた。
おまえは来るのか?来ないのか?来るに決まってるよな。 そう背中で言われてるようで・・・。

悔しい!! 何よ、その余裕!!
・・・泣かない。泣くもんか!

私はクッと唇を噛んだ。
でも、さっき彼に散々キスされた感触が甦っただけだった。
条件反射のようにつま先がキュッと丸まって、顔がうつむく。
すると、彼が買ってきてくれた真新しい靴が目に入った。

悔しい・・・。

私に残された道は・・・ひとつしかないじゃないの。
でも今までだって、私に与えられた選択肢は、ひとつしかなかった。
それを選ぶしかないって状況だったじゃない。

私はフッと笑った。

一歩、そしてまた一歩、私は歩きだした。
息子が待っているところへ。

私のことを、「俺の妻」と抜かした男のところへ。

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