ハートブレイカー
密かにホッと息をついたつもりだったけど、密着している彼には聞こえていたらしい。
フッと笑った彼の吐息を首筋に感じた。

「そうだな」
「海堂さんは、三井さんとおつき合いしていると思ってました」

そう。 だから意外だった。
私に忠告してくれたことや、私を庇うようなことを言ってくれたことが。
彼は、心外且つ不快という思いをこめて、フンと鼻を鳴らした。

「周囲にはそう見えるらしいな。だがそれは違う。むしろあいつは俺を嫌ってる」
「えっ?どうして・・・」
「動くな。そのまま」

驚いてつい体を浮かせた私を軽くいさめるように、彼は自分のほうへ倒させた。
そして彼の手は、鎖骨から二の腕に移動した。

「三井は・・・俺の従兄とつき合ってる。というより愛人だな。正則は結婚してるから」
「正則って、海堂商事の社長、の?」

うわ。さっきから驚いてばっかりなんですけど!
そのためにこの人は、マッサージしてくれてるのかな。
話をしたくて。 そしてポーカーフェイスを見られたくなくて。

彼の手は、私の肘あたりまで移動していた。

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