ハートブレイカー
土日を入れた、ゴールデンウィークの4連休が明日から始まるので、 少し残業があるかもしれないと思ったけど、定時に上がることができてホッとした。
うるさい詮索の目を逃れるように、サッサと着替えを済ませて更衣室を出る。
誰にも捕まらず、ホッとしたのもつかの間、彼が車の前で待っていた。

車のキーを握っている右手に、思わず力が入る。

「今日も直哉を一緒に迎えに行こう」
「・・・車は」
「運転は俺がする」

答えになってるのか、なってないのか・・・。
諦めのため息をつくと、彼にキーを渡した。

「社内でああいうことしたり、言うのはやめてください」
「連休の間にみんな忘れてる」
「私をいじめて楽しいですか」
「いじめる?あれがか」

彼が声を上げて笑った。
低く楽しげな声が車内に響き渡り、私たちを優しく包み込む。

「あの程度でへこむおまえじゃないだろ。それに、あれはいじめとは言わない」
「じゃあ何よ」

彼は前を見ながらニヤニヤ笑っていた。

「・・・もっと素直に受け取れ」
「は」

またはぐらかされたので、保育園に着くまで彼と口を聞かなかった。
でも沈黙の空気は重くなく・・・むしろ心地良かった。

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