ハートブレイカー
「直哉は予定日に産まれてきたのか」
「ううん。予定日より2日遅かった。梅雨まっさかりで、その日も朝から雨が降ってた・・・」

最初は破水から始まったこと。
シトシトと小雨が降る中、タクシーで病院へ行ったこと。
陣痛が始まって8時間で生まれたこと。
初産にしてはとても安産だったと先生から褒められたこと。
私は彼に、滔々(とうとう)とそのときのことを話した。

直哉の産声と、私が泣く声が部屋に響いたあの日、彼はそこにいなかった。
陣痛が起こるたびに握ったのは、彼の手じゃなくて、シーツだった。
心細くて何度も「朔哉さん」って呼んだけど・・・。

今、彼がどんな気持ちで聞いているのかは、分からない。
でも彼の鼓動は、規則正しく、穏やかに私の耳に響く。

「とても親思いな赤ちゃんねって先生に言われて、ホントそのとおりだと思った」

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