ハートブレイカー
「体が弱った父親がいる上に、海堂商事の上層部は社長を俺にするか、正則にするかで揉めていた。先行きは怪しい。だからまずは、おまえよりそっちを優先させると決めた。だがおまえは俺を避けまくっていた上に、突然消えた。いや、逃げたと言うべきなのか。まったく・・・」

彼が私に手を伸ばしてきた。

殺される!
ビクッとした私は、咄嗟に両目をギュッとつぶって、身をすくめた。

でも彼は、ただ私をそっと抱きしめただけだった。

・・・そうだよね。
よく考えてみたら、彼が私を殺すなんてありえない。
彼は暴力に訴えるような人じゃない。

フと力を抜いた私の背中を、彼が優しくトントンと叩いた。


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