ハートブレイカー
「今日は帰ってゆっくり休みなさい。顔合わせはまた後日・・・」
「いえ。どちらにしても私には無理です」
「・・・何?」
「浪川さん!?」

斜め上から私を見下ろす彼の目は、少し閉じられていながらも、ギラリと光っている。

「大変申し訳ないのですが、私はこちらで・・・働きたいとは思いません。雇うなら健康そうな他の方を雇われたほうが、お互いのためになると思いますので」

万が一私が海堂(ここ)で働いても、この人に関わる限り、ますます病気がちになるのは間違いない。
派遣のお兄さんには申し訳ないけど、他を探してもらおう。
私の心の平穏を保つために。

「では失礼いたします」

私はきびすを返し、出口に向かって歩き始めた。

「あ、ちょっと浪川さんっ!!」という派遣のお兄さんの、ものすごく慌てた声が後ろから聞こえてくる。
でも、それ以上に彼の視線(レーザービーム)を、背中に痛いほど感じていた私は、止まることはおろか、後ろをふり向く勇気がなかった。


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