ハートブレイカー
「あの・・もう帰るって・・言った、でしょ」
「ああ・・・そうだったな」

お互いの息がかかるほど顔が近い。
まっすぐ射抜く黒い眼力に目がつぶれそう!
だったら目をつぶればいいのに・・・。

できない。

そらしたり、よけたり、つぶったら負け、という気持ちもあった。
でも本当は、ただこの人を見ていたかった。

不意に海堂さんは離れた。
私は思わずよろめきそうになったのをごまかすために、一歩下がったフリをした。

「また来る」

それだけ言って、海堂さんは帰っていった。


時間にしてそんなに長いバトルじゃなかった。
でも私的には、一生分の体力と気力を使い果たしたくらい、疲れがドッと押し寄せた。
だからか、家の中に入った私は、ヘナヘナとしゃがみこんだ。

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