ハートブレイカー
3歳児に「10分以内」なんて言っても、時間の感覚なんて分からないよな。
これ以上、直哉を不安がらせるわけにはいかない。

「とにかく、救急車はすぐ来る。俺も早くそっちへ行く。だからそこでママと一緒に待ってろ」
「う、ん」
「救急車が来たら俺に教えろ」
「わかっ、た」

必死に泣くまいと健気な顔をしている、自分のミニチュアな顔が目に浮かぶ。

「直哉。この電話は、俺が・・・パパが行くまで絶対切るなよ」

ここで初めて自分のことを、躊躇せずに「パパ」と言えたが、状況に感謝したくはない。くそっ。

「わかったぁ・・ううぅ」

ここから愛美のアパートまでは、車で約20分、飛ばして・・・10分強。
この時間帯なら渋滞に引っかかることもないだろう。
どちらにしても、俺より信号無視できる救急車のほうが早く着くのは間違いない。
飛ばせるだけ飛ばそう。

万が一スピード違反で警察に捕まったら・・・パトカージャックすればいいか。


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