イデア
病室の中は,ツンと鼻を突く独特の臭いがした。


「…甫芽くん…比奈ちゃんに私の事言っちゃったんだ…。
心配しないように言わないでって言ったのに…」


そう言う汀紗は元気そうだったが,そう振る舞っていただけかもしれない。



「汀紗…元気?」


そっと問いかけた。
私の心中を聞かれないように。



「うん。…比奈ちゃんが来てくれるなんて思わなかったから,ちょっとびっくりしちゃったけど…」




汀紗の肌は相変わらず白い。
首を動かす度,違う面の白が伺えた。





甫芽が小さな音を立てて,病室から出ていった。



ここに私と汀紗,二人だけが残された。
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