相合い傘

『相合い傘』

『あ、雨。傘、忘れちゃった。』
いつものように終わりのチャイムと共に教室を出る。はや歩きで階段を下って、神崎 奈歩( かんざき なお )は昇降口へと向かう。

『バイバイ』
この言葉には当たり前のように、『また、明日』というような意味合いも含まれている。当然のように、明日またいつものように、なんら変わらず会えると思っているのだろう。

『バイバイ、か。』
潤んだ瞳を誤魔化すように神崎 奈歩はヘヘッと笑って見せた。
『奈歩、どうしたの？』
誤魔化したつもりでいた神崎だが、昇降口で神崎のことを待っていた美南 藍( みなみ あい )は、誤魔化したつもりの瞳の奥に映るどこか切なく、哀しみのようなものを感じとっていた。

『藍…。待っててくれてたんだ。』
そう、神崎が言うと美南は、
『だって奈歩、傘忘れてたじゃない。全く。』
と、世話の焼ける妹の姉のような口振りで美南は言う。
『私の傘に入っていいから。こんな雨のなか傘差さずに帰ったら風邪引くじゃない。』
『うん…。有り難う、藍。』
美南は水玉模様のいかにも女の子らしい傘を広げて１つの小さな傘の下、私達２人は相合い傘をしながら学校を後にした。