桜の舞う季節に。
【揚羽side】
私は、人の希望に満ちたキラキラとした目が好き。
あの目を見るだけで、自然と元気になれる。
今日は、私の通う登米高等学校(とよまこうとうがっこう)の入学式。
入学式、一時間前。
まだ新入生はいない……はずだった。
「えっ……。寝てる……の?」
私が見たのは、桜の木の下でスーっと、寝息を立てる真新しい制服を着た男の子。
私は、その男の子にそっと近付いた。
膝をおり、彼の顔を見る。前髪でよく見えないので、前髪に触れる。
(うわー……。綺麗な顔。)
まるでモデルのような顔立ちの彼。ここで寝ていることですら絵になりそうだ。だが、こんなところで寝ていられては、在校生や先生に怒られてしまう。
(よしっ!)
私は、彼を起こそうと肩を揺さぶる。
「起きて下さい!! こんなところで寝てたら、目立ちますよ!!」
力強く揺さぶったつもりだが、全然起きない。私はもう一度、さっきよりも強く、
「起きて下さいってば!! うわっ!!」
いきなり、肩をつかんでた手を引き寄せられる。私は、目をぎゅっと瞑り、
(転ぶ!!)
ドサッ
体はどこも痛くない。私は、そっと目を開けた。ドアップに彼の顔が見える。眠たげな目をパチクリとさせる姿も可愛らしい。
(って……)
「ごっ、ごめんなさい!! 私別に、あなたを起こそうとなんてしっ、しししししてませんから!!」
顔が近いことにパニックを起こし、言動が意味不明だ。
「いやッ!起こそうとしたのは事実で!でも、あのっ!それは!」
「シッ、少し黙って?」
彼の細長い指が私の唇に微かに触れる。妙に落ち着きのある声。そして、視線。
(本当に私よりも年下なのかな……?)
とりあえず黙る。顔も赤いし、思考を落ち着かせたいというのもあるからだ。
「ねぇ」
「はっ、はい!」
「唇、柔らかいね。」
そういいながら、細長い指を私の唇をなぞるように動かす。
こんなことをもちろんされたことのない私は、
「やめっ!!」
「だから、黙って。俺…」
そういいながら、顔を近付けてくる。
(えっ!えっ?えぇーーー!?( ; ゜Д゜))
肩をがっしりと固定されてしまい、動くに動けない。
(誰か助けて!!)
ゴンッ
「へ?」
彼の顔は、私の肩にたどり着いた。
耳に届くのは、寝息だけ。よかったと安堵した。
(ふしだらなことにならなくてよかったぁ。でも…)
肩はがっちりとホールドされ、尚且つ顔もある。
(にっ、逃げられない!!)
しばらくはこのままでいるしかないと、決めた私だった。