あの頃のキミは
一瞬…だったのだと思う。

目の前に居たはずの渚ちゃんが、居なくなった。
すごい音がした。

何があったのか理解できなかった。

「…なぎちゃん?」

「なぎさ‼︎」

隣に居た凪くんが私の手を離して走り出す。

近所の人達が何事かと建物からでてきていた。

「おい!救急車‼︎子供がはねられたぞ!」

はねられた…?

「なぎさ!うっ…なぎさぁぁ‼︎」

凪くん、泣き声と叫び声が周りに響いていた。

「君!動かしちゃだめだ!」

「うぅっ、、なんでっ、なんでだよ!離して‼︎なぎさは…ボクの…っうぅっ…」

耳が遠い…何が起こったのかなんとなくわかってしまった…
恐る恐る足を前に進める。

自分の心臓が煩い…

見てはいけないような、でも真実を確かめなくてはいけない気持ちと…色々な感情が入り乱れていた。

周りが騒がしいはずなのに、私の中は心臓がうるさくて何も聞こえない。

そっとブロック塀越しから除いた瞬間

ヒュッと息を呑んだ。

そこには血まみれになったなぎちゃんと、手にべったりと血をつけた、なぎくんがいた。

ブロック塀に突っ込み、フロント部分が潰れた乗用車。

「うっ…うわぁぁぁぁぁっ」

涙が止まらなかった。

呼吸が苦しくて息を吸っても吸えなくて、そのうち喉がヒューっヒューっと音を立て始めた。

「おい、誰か子供をここから遠ざけてくれ!あの子、過呼吸起こしてるぞ!」

「絵麻!!すみませんっ、その子俺の妹です‼︎」

その時連絡を聞きつけた、みさちゃんや裕太兄が駆けつけていた。

裕太兄に抱えられて、その後の事は記憶にない。

次に気がついた時には、もう病院のベットの上だった。

座り込んだまま、目を開ける。

「ぅうっ……なぎちゃん…」

記憶の中で確かにそこにいたのに…もう居ない。

ボロボロと溢れ落ちる涙。

「絵麻‼︎」

声にハッとして振り返る。
< 170 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop