あの頃のキミは
「「もしもし?」」
スピーカーの音割れがすごいくらいに、大丈夫なの⁈今どこにいるの⁈と質問攻めに合う。
きっとつぐみと冬夜くんが、私たちのマンションに行って知らせてくれたのだろう。
通話を切ってまた顔を見合わせる。
「と、とりあえず早く戻ろう!お母さんのあんなに焦った声初めて聞いた!」
「急ごう!」
そう言って凪くんは私の手を握って走り出した。
当たり前だけど、あの頃より骨張っていて私よりも大きな手。
凪くんは、多分私のスピードに合わせて走ってくれているのだろうけど、それでも速くて私が途中で音をあげる。
「ちょ…待って…」
ゼェゼェと息を切らす私を心配そうに見つめる凪くん。
「あ、ごめん、ゆっくり走ったつもりだったんだけど…」
や、やっぱり……
「半分は来たし、残りは歩こうか」
「う、うん…」
息を整えながらゆっくりと歩く。
走るために握ったと思っていた手は、まだ繋がれていた。
「絵麻はさ、覚えていないかもしれないけど…」
「うん?」
「渚はさ、すごい活発で要領のいい子だったんだ。かけっこすれば渚の方が速かったし、お絵描きとかも上手でさ、いっつも俺は渚の後を追いかけていく子で。でも真似しても真似しても、渚みたいにうまくはいかなくて…」
「それでちょっと落ち込んで、絵麻にぽろっと愚痴を溢したんだ」
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『ぼく、なぎさにまけてばっかりで、かっこうわるい…』
『そんなことない!わたし、なぎくんのかっこいいところいっぱいしってるよ!わたしのいちばんはね、なぎくんだよ!えへへー』
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「…って。照れながら言ってくれてさ、すごい嬉しかったの覚えてる。俺はもう、その頃から勝ち負けじゃなく絵麻の1番でありたいって思ったんだ」
なんだか聞いていて恥ずかしい気持ちになった。
私、その頃はそんな事言えちゃう素直な子だったんだ⁈
「それからあんな事故があって、ちょうど父さんの海外赴任の話も重なって…。父さんは単身赴任の予定だったんだけど、永井家とも話し合って一度離れようって事でフランスに行ったんだ」
「そうだったんだ…」
「うん。でも絵理さんからは絵麻の近況とかも聞いてたし、それが俺の頑張る糧になってたのは確かだよ」
私は何も知らなかったけど、それでも凪くんの力になれていた事は嬉しかった。
そう思い、ギュっと凪くんの手を握りしめた。
そんな話をしているとあっという間に私達のマンションに到着した。