並木道の流れの通り
春が来そうな冬
 花は遠くを見ていた。いつも遠くを見ていた。遠くのほうにはきっと、何かがあると信じていた。
私を解き放つ何か。
もっとも花は、不満など抱いていなかった。たっぷりと親の愛に浸ってきたし、数は少ないが信頼できる友達がいた。
花はしかし、恋人がいなかった。
23歳のいま恋人がいないというのではない。生まれてから一度もお付き合いというものをしたことがない。
その点で花は、自分にはなにか大きな欠落があるのではないかと疑っていた。

なぜ花には恋人がいないのか。
花自身は恋人を欲しがっていた。中学のころから周りの友達はお付き合いをはじめだした。デートという言葉を聞くたびにドキドキしたが、自分にはまだ早すぎるような気がした。
高校ではもっと多くの男女が付き合っていた。中学のころのような冷やかしはもう起きず、恋人がいないひとのほうが少ないかもしれなかった。それでも花は、同じように恋人のいない友達を見つけては安心感を得ていた。
大学に入ってさすがにあせり始めた。花は女子大で、彼氏のいない女の子などなかなか見つからなかった。
彼氏のいない子は、手入れのされていない子ばかりだった。
花は決して不細工ではない。特別な美人ではないが、まちでナンパぐらいはされる顔立ちであった。
花はおそらく赤面症であった。緊張したり、男性の前に立つとすぐに赤くなった。そういう時はあせがにじみ出て、上手に話せなくなってしまう。そうしてうつむいてしまうのだった。
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