桃の天然水‐桃天!‐
昼休み、ぶらぶら廊下を歩いていたら、印刷室の前で大量にプリントを抱えた司書の江崎先生とぶつかりそうになった。
「…っと。先生、大丈夫ですか?」
「わ、ごめんね、前見えなくて」
背の低い江崎先生。
俺との身長差的に、たぶん150あるかないか、ってくらいだと思う。
俺、180ちょっと。
身長差は、30センチものさしくらいあった。
先生は俺の顔を見て何か思い出したのか、言いにくそうに言った。
「吉永君、」
「はい?」
「もしよかったら、放課後図書室の本の整理頼めないかな?1ヶ月くらい」
はあ!?
1ヶ月!?
冗談じゃねえよ。
でも、後々のためにならない発言は控え、ためになる行動を足るのが俺、隆司流だ。
「良いですよ、俺、暇ですから」
俺が笑ってそう答えると、先生が本当に!?と逆に驚いた顔をした。
ぜんっぜん暇じゃねえけど、まあしゃーねえよな。
優等生・隆司君を演じきるためには。
人生なんてただのゲームなんだし。
一回きりの、ゲーム。
負けるわけにはいかないんだ。
っていうか、一個たりとも黒星がつくのは耐えられない。
「じゃあ、放課後図書室に来てもらえるかな?」
「はい、わかりました」
江崎先生は笑うと、そのまま印刷室に入って行った。
俺は俺で、なんか何もかもうぜえ、つまんねえ、めんどい、だるいっていうマイナスの気持ちばっかり引きずって、自分の教室に戻った。