イチコイ日誌~苺色の恋記録~
 
「……いつもと違います、ね」


「幻滅してもらっておおいに結構。そして明日から来ないで青二才」



 スラスラと返ってくるたわ言が、今日はない。


 私の優勢だ。一気に畳み掛ける。



「ひとめぼれとかあり得ない」



 たくさん練習して、やっと良い音色が奏でられるように、恋も育むものでしょ?


 ポロッと口から零れたような軽い想いなら、お断りだわ。



「ひとめぼれで悪いですか」


「食い下がるつもり?」



 膝蹴り食らったのに、凝りんな1年坊主。



「好きになったんです、先輩のピアノ。だから先輩が好きなんです」


「意味がわからん」


「あんな綺麗な音が出せる人、ほかに知りません。……綺麗です、先輩」



 いつになく真摯な瞳に、不覚にもうろたえた矢先。


 私の手を取って……指に、は、キス!?
 
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