金魚の恋
むせかえるタバコの煙りに
そっと涙を流す 少女

朝の海辺に流れ着いていた
貝がらを

少女はひとり見つめ
又涙を 流した
               
teiko!

あの日から、まだ一週間と経っていないのに、もう、ひと月もふた月も
会っていないような気持ちだ。
あの日のことを思い出すだけで、胸がドキドキする。初めてのことだ。
何もかもが、初めてのことだ。

“甘美”
言葉としては、知ってはいたけど

“妖艶”
teikoのために、造られたことば

“ウブ”
bokuのために、用意された…?

何という映画だったっけ? 忘れちゃったよ、ほんとに。
と言うよりは、観てなかったような気がする。
「どうして?」
なんて、言うのかい。
こっちこそ、
「どうしてbokuの手を握ったの」
って、言いたい。

細い指がbokuの指にからまり、まるで蛸の吸盤のように吸い付いてきた。
ごめん、ごめん、表現が悪いね。でも、まったくそんな感じだ。

あったかい手だった、ホントに暖かい手だった。
手が冷たい人は心が温かく、手が暖かい人は心が冷…なんてこと、teikoに限って!

teikoに手紙を書こうにも、
teikoに電話をしようにも、
teikoに連絡をとろうにも、
なんにも知らないbokuだった。
teikoにとって、bokuは、いったい…

“天にも昇る”と言うのは、こういうことなんだろうか。
持ちがウキウキして、つい笑いが漏れてしまう。
リズム感というか、音楽らしきものが、体中に溢れてる。
無意識の内に、手足で小さく小刻みにリズムをとっている。

「ごめんねえ、何度も電話をくれたのよねえ」
「う、うん」
耳たぶが熱くなっていくのが、わかる。
きっと顔が赤くなってるだろう。

「研修中でさ、電話禁止だったの。
夜は夜でね、研修生同士のアレでね。
とに角、ごめんね。
お詫びにさ、お部屋のお掃除してあげるから。
この間、約束したでしょ」

「えっ?! あ、ありがとう」
「お掃除しちゃ、だめよ。キレイになってたら、私帰っちゃうからね」
「う、うん」
とに角もう、握られた手が気になって、まるで映画を観ることが出来なかった。

「あんなこと、おかしいよねえ。造りすぎって、感じだね」
bokuの耳元で囁くのは、もう止めて! 
bokuの心臓が破裂しそうになった。
甘い香がbokuを包み込んでいく。
teikoの甘い香に、bokuは縛られた。
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