金魚の恋
tomko!

覚えていますか? 初めて逢った夜のことを。
部屋の電話が鳴りました。僕はすぐにロビーに駆け下りました。六時四十八分でした。
約束の時間は七時だったのに、君は早く来てくれました。
エレベーターを待つ時間も もどかしく、僕は階段を駆け下りたよ。

モスグリーンのスカートに、白いブラウス姿の君は、光り輝いて見えたものです。
ソファに行儀良く座っていた君の横顔を見た時、思わず立ち竦んでしまったものです。
同じ高三とは思えない、大人びた君が居ました。
緊張のせいか、強張った表情でしたね。
伏目がちの君は、他に居た誰よりも、綺麗でした。

「おおぉ! 美人だあ」
「すっげえ!」

突然、僕の後ろから歓声が上がりました。
驚いて振り返ると、クラスメートが居ました。
てっきり自由外出に出かけたと思っていたのに、どこで嗅ぎ付けたのか、君を待っていたらしいんです。

とんでもない。僕は、誰にも話してません。心外だ、そんな疑問を持たれるなんて。
でも、ここ二週間ほどの僕から、"なにか、あるゾ!"と、思ったらしい。
突然、にやついたり、ため息を吐いたり、遠くを見るような視線とか…。
修学旅行が近付くに連れ、そんなことが多々あったらしい。
僕は、まるで気が付かなかったけど。

でも、助かりました。君に何て声を掛けて良いのか、分からなかったから。
クラスメートの歓声に、驚いたように顔を上げた君は、僕を見つけて、ニコリと微笑んでくれたよね。
そして、ペコリと頭を下げてくれた。
背中を押されるようにして、君の元に駆け寄った僕でした。

「コ、コンバンワ」
何てことだ、初めての言葉が、これだとは。あれだけ悩みに悩んだのに。
「こんばんわ! 初めまして、ですよね」
初めて聞く、君の声。まるで、鈴の音です。感激でした。
君は少し、はにかみつつ、僕を見上げるように言ったんだ。

177cmの僕と、160cm足らずの君。
「チッチとサリーみたいね」
何のことか分からぬ僕に、漫画なのと、教えてくれた。
僕の劇画好きを知ってる君は、
「子供っぽいかな?」と、鼻に小じわを寄せて笑いましたね。
胸が、キュン! と、また痛みました。
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