鏡怪潜〜キョウカイセン〜
脱衣所に入り、電気を点けて私はホッと胸を撫で下ろした。


この家の洗面台は、入り口のドアと垂直に置かれていて、正面に行かなければ鏡に映る事はない。


浴室のドアも、脱衣所に入ってすぐ左側にあるし。


トイレと玄関は危険だけど、浴室は大丈夫そうで安心した。


「お風呂場が安心出来るのは良いな。うちなんてドアを開けたら正面に鏡があるからさ……」


しっとりと肌にまとわり付くブラウスを脱ぎ、裸になって浴室に入る。


鏡は……と、浴室内を見回すと、私の右側。


ドアと同じ面に付けられた鏡が目に入った。


シャワーも蛇口も、鏡よりドア側にあって、注意すれば映らなくて済むのだ。


とはいえ、気を抜く事は出来ないな。


蛇口を捻り、シャワーからお湯を出した私は、それを頭から浴びて汗を流した。


「明日になったらもっと大変な事になる……か。もう今でも十分大変だよ」


早く終わってくれないかな。


後8日か、8人か……もしも8人だとしたら、早く誰か8人犠牲にならないかなとさえ思ってしまう。


私は死にたくない。


だったら他の誰かが……と。













……私は、何を考えているんだろう。


他の誰かが?


一体誰が犠牲になれば良いと思ってるの?

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