【短編】フィガロの葉桜
「……それじゃあフィガロ。そろそろ俺、行くよ」


「……うん。気をつけるんだよ?」


「アハッ。まるで母親みたいだな」


我ながらそう思う。


今のは完全に子供の旅路の無事を祈る母親のそれだった。


「ねぇ、フィガロ。森を出たらさ、もうここには……戻って来れないんだよね?」


フィガロは無言で以て答える。


「今更だけどさ、俺がここにこれたのって、凄い奇跡なんだよね」


「そうだね」


「……もしかしたらさ、運命って、奴なのかな?」


ネロはドアノブを握り、ドアを開けた。


「それこそ、呪われた運命だよネロ」


フィガロはネロの大きな背中に、いつもと同じ笑いを見せる。


ネロも「そうだな」と笑いながら返した。


それから二人の笑い声が小さな家を包んだ。





「それじゃ、行ってきます」


「うん。行ってらっしゃい」


そして、扉の閉まる音と同時に、視界からネロの姿はなくなった。


家に沈黙が停留する。


不意にネロの旅路を心配してしまう。


森から抜けるまでは木々に道を作れと命令したから大丈夫。


大丈夫だけど……。フィガロにはわかっていた。


二度とネロが帰って来れない事を。
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