【短編】フィガロの葉桜
この闇と私だけが住人の森に住み着いて何年の月日が経ったろう。


農作業の合間、新緑茂る葉桜を見上げ呟いた。


もしかしたら何年どころじゃないかもしれない。


何しろあの時植えたあの種は大きく成長し、立派な桜の木へと変身した。


変身したと言えば少女、『フィガロ』の体も変身したと言えよう。


胸の凹凸具合こそ変わりないが、全体的に丸みを帯び、少女から女性に変わったと言えなくはない。


フィガロはふと呟いた。


「兄さんは他の木と同じ色をしてるね」


葉桜に声を掛けたのだ。しかし返事はない。


「兄さんは他の仲間と同化することが出来たんだね?よかった」


フィガロは小さく笑った。


だけどそれは、葉桜に姿を変えた兄に対する皮肉であり、自嘲にほかならなかった。


「私には……無理だよ。もう俗世に戻る気がないし、あんな思いをするなら戻りたくない」


そう決めた。そう思ってきた筈なのに、心には小さく穴が空いている。


そこが寒いのだ。


「私は……寂しくなんか…………」


続く言葉をかみ殺し、フィガロは再び農作業に戻った。
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