【短編】フィガロの葉桜
それから一年が経ったある日、一人の少年がフィガロの家にやって来た。


少年はまだ十歳をいくつも過ぎてない、まさにフィガロがこの地にやって来た時と同じ幼い子供だった。


衣服は、布地のボロボロの服。それに所々赤黒い染みが目立つ。その染みが血であることに気付くのに時間は必要なかった。


「お前は、人間か?」


フィガロが最初に少年に聞いたそれは本心からの言葉だった。


このアランクディ大樹海の最奥部にただの人間、それも子供なんかが辿り着けるはずがない。


辿り着けるとしたらそれは人間ではない。


闇に居着く魔の者か、死を受け入れられぬ亡者か、


……私と同じ境遇の者位だろう。


しかし少年の答えは、無情にもフィガロの考えた中でも一番聞きたくなかったものだった。


「僕は、人間です」


そしてそのまま、意識を失い倒れてしまった。


フィガロは呟く。


あぁ、彼は、私と同じなのだ……。


倒れた少年を見下ろし、フィガロは嘆いた。
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