【短編】フィガロの葉桜
厳しい冬が終わり、芽吹く春も過ぎ、闇の森にも夏がやってきた。


兄さんも、活力漲(みなぎ)る陽光を浴び、雄々しく葉桜を茂らせている。


そして、あれから毎日欠かすことなく素振りを続けたネロの剣の腕も、二つの季節を越えたことで大きく上達していた。


「凄いよネロ。子供のお前がそれだけ出来れば大したもんだ」


しかしネロの表情に喜びはなく、暗いままだ。


それは照れ隠しのようなもの。フィガロはそう捉えていた。


「どうしたんだネロ?気分でも悪い?」


夏風邪でも引いたかな?


フィガロはネロの額に手のひらを当てようとした。


しかしフィガロの手は乱暴に振り払われた。


「ネロ?」


しかしネロは口を開かない。


「どうしたんだいネロ。それ位出来れば狩りくらい上手くいくさ」


「違う!!」


違うんだ……。ネロは小さく呟いた。


「……違う。って言うのはどういう事だい?」


ネロはフィガロの問いに答えようとはせず、ただ俯くだけ。


「答えたくないの?」


ネロは小さく頷いた。


「……なら」


当ててあげるよ。


フィガロは優しい、けれどそこに深遠を垣間見せる、暗い笑みを浮かべた。
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