【短編】フィガロの葉桜
ネロはフィガロを見上げた。フィガロもネロを見下ろす。


「…………誰を、殺すの?」


「え……?」


「わかるよネロ。お前の考えてる事が、全て」


声が……出ない。ネロは恐ろしかった。目の前の彼女が、ゆっくりとネロに歩みよるたびに叫び出したかった。


でも、声が出ないのだ。


フィガロはゆっくりとネロに顔を近づける。既に吐息がかかる程に顔は近い。


「……仇討ち、だね」


どう……して………?


それは声にならない声だった。


フィガロは、まだ笑みを湛えたまま。だけど逆にそれが恐ろしくてたまらない。震えが止まらない。


「なんでわかった。みたいな顔してるよネロ。


いいよ。私は教えたげる。どこかの誰かさんとは違うからね」


私はね、『魔女』、なんだよ。


『魔女』だから、わかったんだよ。


フィガロはそう、耳元で囁くように言った。


「な、何……言ってんだよ……!


魔女なんて……」


そこまでで精一杯だった。必死になって絞り出した否定の言葉。


だがフィガロは尚も笑う。


「信じてないなネロ。ま、それもそうだ」


あははは、フィガロの笑い声が木々の合間を木霊する。
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