傘をどうぞ。
雨足は傘をさした瞬間から、どんどん強まり鮮明に雨の音を響かせていた。

この傘はビニール傘と違って、傘の布地に当たる雨の音がリアルに聞こえる。

まるで、傘をさしていないかのように。

立ち止まって、耳を澄ませながら上を向いて傘を見る。

白い布地を伝う赤茶色い濁った色のひと雫の雨。

なぜだろうと気になったけど、
路地に挟まれた屋根の泥が落ちて混ざっているとか、
そんな理由だろうと気にもしなかった。

だけど、赤茶色の雨はどんどん増え、やがて鮮血のような『赤』になった。
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